タイのチェンライに行ってきました②~郷に入っては郷に従えは正しい~

エッセイ

 2024年の3月、わたしはチェンライに住む、タイ人の友人アノンに会いに行ったが、「郷に入っては郷に従え」という格言を知っていて良かったと思う。(まあ、世界中の人々が知っているだろう)。

 「郷に入っては郷に従え」は英語では、”When in Rome, do as the Romans do”(ローマに入っては、ローマ人に従え)というらしい。ローマ帝国時代、外国人はローマ人に従わなかったら、よほどの不利益を受けたのだろう・・・。というわけで、わたしは、タイではタイ人のアノンの言うことには従おうとという心境でチェンライを訪れた。

 チェンライでは、アノンとアノンの夫、フィリップが経営する、こじんまりとしたコテージに滞在した。コテージは7棟あり、そのうち3棟には、アノンとフィリップ、アノンの母親がそれぞれ暮らしていて、残りの4棟を外国人旅行者に貸しているらしかった。わたしのコテージは、アノンのコテージの向かいで、バスやトイレはもちろん、小さめのキッチンや冷蔵庫、キングサイズのベッド、キャビネット、テーブルセットが付いていて、窓も広く、山の中にあって風景はそれは長閑で、小鳥のさえずりに包まれて過ごした。

 コテージの中央には、小さなプールがあり、ルーフの下にデッキチェアが3個並んでいる。その周りには黄色やピンクの花が咲き乱れ、タマリンドウやバナナ、マンゴーもなっていて、好きな時にもぎとって食べられる。

 アノンから、一通り部屋や庭の説明をしてもらい、わたしがベッドの端に腰かけ、歯を磨き始めると、

「タイでは、ベッドに座って歯を磨くことはだめなのよ」

と、注意され、椅子に座りなおした。すると、アノンは冷蔵庫からローズアップルを取り出してベッドに寝転び食べ始めた。わたしは何故だか愉快な気持ちになった。ちなみに、ローズアップルは洋梨のように長細い形をしたリンゴで、実が柔らかいがシャリシャリとした歯ごたえがあり、皮ごと、スナック感覚で食べられる。

 また、シャワー室には石鹸だけが置いてあり、すべてのタイ人がそうしているわけではないだろうが、アノンは髪も石鹸で洗っているようだった。シャンプー・リンスで洗い、ヘアークリームを塗ってドライヤーで乾かせばサラサラになるわたしの髪も、石鹸で洗うととたんにキシキシと絡まる。それで、アノンに、ヘアークリームを貸してほしい、と頼むと、彼女はスプレー式の小瓶を持ってきてくれた。しかし、それは油で、付けた部分の髪の毛がベタっと固まる。

「髪の栄養よ。また、明日か明後日、石鹸で洗い流せばいいわ」

と、アノンは微笑み、考えれば、髪の毛がサラサラしていなくとも、何も困りはしないのだった。

 また、タイには「ムーガタ」という、焼肉と鍋物が一体化した食べ物があり、中央の部分で魚介類や肉を焼き、その周りにスープを入れる部分があり、そこに魚介類や肉、野菜を入れて煮て、タレに付けていただく、という、すごく機能的なものがある。ぜひ、我が家にもこのムーガタの調理器具を買って帰りたい、と思うが、焼肉と鍋を一緒に食べなくても、ま、いいか、という気もする。

 タイ式トイレにだけは、馴染めなかった、というか、危ないとすら感じた。水洗でないことが多いのは仕方ないとしても、タイ式トイレは洋式トイレとほぼ同じ形をしていて、枠の部分に足をのせてしゃがむ、という、アラカン以上の年齢の人々には危険極まりない造りをしている。高さがあるので、転げ落ちたら大けがをするだろう。(まあ、タイ王国の中のことを、外国人であるわたしがつべこべ言うのは失礼かな)

 そして、会計はすべてわたしが即座に、スマートに払う。タイ(おそらく他の東南アジア)には、お金は持っている方が出すべきという考えが根強く、ケチると友情にひびが入る。タイ人すべてかどうか分からないけれど、

「わたしは、もう、あなたとは付き合えない」

と、はっきりと言われることもあるだろう。(わたしはひとり1,200円のマッサージをケチって、アノンから一度、言われたことがある)

 例えば、ムーガタはビュッフェ方式で、海老や貝、イカ、豚肉、野菜、マンゴー、ドリアン、ドーナツなど食べ放題で、ひとり1,600円ほどだ。二人分でも3,200円。この価格を高い、二人分を支払うのは痛い、と感じるなら、一日1万円の予算もとれないのなら、タイで、タイ人の友人に観光に連れて行ってほしいなどと頼んではならない、と思う。いくらタイが経済発展を遂げていると言っても、まだまだタイと日本では物価が違うし、タイ人は好き好んで地元を一緒に観光しているわけではないだろうし、時間と体力を使って観光案内してくれる人にお金を出し渋ってはならない。

 アノンは、わたしをフラワーガーデンやホワイトテンプルを始め美しい寺院、羊のテーマパーク、おしゃれなカフェ、ナイトバザール、温泉、ひとり2時間で1,200円のマッサージに連れて行ってくれた。また、ミャンマーとの国境であるメーサイ、タイとミャンマー、ラオスが望めるスカイウオーク、メコン川下り、ラオスにあるトライアングル公園なども、タイ人の友人がいなければ、なかなか行ける場所ではない。

 まあ、誰とでも、付き合いにはお金の問題が絡む。タイが、ハワイのようにパンケーキが8,000円もするとしたら、気軽に遊びに行くことは、わたしには難しくなる。これ以上、バーツ高が進み、タイの物価が上がっていけば、アノンとも徐々に疎遠になってしまうのかな。悲しい、とも思うが、今、アノンと友達付き合いができることは神様からの贈り物だと思える。

 

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