前回の、『フランスのパリに行ってきました⑫』でも書いたように、パリでは、観光地に入るためにはネット決済が主流になっている。ディズニーランド・パリの入場券はネットでしか購入できず、パリ市庁舎の展示室は無料で入場できるが、やはり事前にネットで受付を完了させておかなければならない。
しかし、そこはやはり、相手の顔も住所も分からないネットの世界。公式のホームページで購入するより、2倍近く高い値段で入場チケットを売っているサイトがいっぱいある。「限定20名で、日本語ガイドが付き」と書かれてあり、その分の値段を上乗せたチケットを購入して現地に行っても、日本語ガイドは来なかったりする。しかし、送られてくるQRコードは入場チケットとしては機能するし、値段設定が絶妙で、20ユーロ(当時のレートで、3,200円)くらいの上乗せだから、苦情を言って時間をロスするより諦めよう、という感情が旅行者に沸くように仕向けられている。(と思う)
ならば、必ず公式サイトで購入すればいいじゃないか、という意見があるだろうが、日付が差し迫っている場合、公式サイトでは売り切れているが、倍近い値段で売っているサイトでは買える、ということがよくある。つまり、そういう生業をしている業者が、公式サイトの入場チケットを買い占めているのだろう。
まあ、健康に自信があったら、パリに発つ前に訪れる観光地を決めて、事前に入場チケットをすべて公式サイトで購入しておくと良いと思う。(ちなみに、パリミュージアムパスというものも売っていて、パリとパリ近郊の50を超える美術館や博物館などに入場できるパスが2日間で16,710円(2024年時点)で購入できるらしいが、わたしのように、一日に多くて二か所くらいしか観光しない者にとっては、却って割高になる)
パリを発つ前日、わたしは、サント・シャペルにどうしても行きたくなって、ネットの公式サイトを覗いたら、その日は完売になっていて、仕方なく、業者のお高い入場チケットを購入する羽目になった。サント・シャペルの人気は凄まじく、それは長い行列が出来ていて、入場するまで二時間近く待つこととなったが、パリ最古のステンドグラスの美しさと繊細さにはすっかり魅了され、パリと聞けば、わたしはそのステンドグラスが脳裏に浮かぶようになった。
サント・シャペルを出て、ずっと気になっていたオペラのサイトを見ていたら、オペラ・バスティーユで、その日の18時30分から「マダム・バタフライ」が開演されることを知った。その時の時間は17時で、そのままオペラ・バスティーユに行きたかったが、オペラを見るならジャケットを着て、アクセサリーを付けなきゃ、という思いにとらわれ、いったんホテルに戻ることにした。
ホテルの、四十歳前後のマネージャーに相談すると、
「オペラのチケットはネットで買うと割高なので、オペラ・バスティー(「ユ」は発音しなかった)で買われるといいですよ」
といわれ、ネットの割高のチケットに辟易していたわたしは、そうすることにした。
その時、パリに来て、二回目のタクシーに乗り、降りる時にメーターを見ると『28€』と表示されていたので、中東系の若い運転手に、
「30ユーロでいいですか?」
と、尋ねると、
「35ユーロ、シルブプレ!」
と、言われた。わたしが聞いていたところでは、パリでは基本的にタクシーにはチップは不要で、荷物を持ってくれたりした時に気持ち分を渡す、ということだったのだが、運転手の言い方に何というか必死さがあり、わたしが35ユーロを渡すと、
「メルシー、マダム!」
と、やはり感情のこもった言葉が返ってきて、移民の暮らしも大変なんだな、と、彼の心情がじんわり伝わってきた。
オペラ・バスティーユに着いた時、時間は18時25分を回っていた。ホールを駆け回り、チケットはどこで買えるのかスタッフに聞いて、ようやくチケット売り場にたどり着いたが、女性スタッフが「チケットはありません」と真顔で言った。わたしは急いでスマホを取り出し、サイトで桟敷席のチケットを購入してQRコードを女性に見せたが、その時、「ドーン」とホールに鐘が鳴り響き、「席はありません!そのチケットは払い戻してもらってください。鐘が鳴った以上、何があっても、中へは入れません!」と叫び、男性スタッフが、「マダム、申し訳ございません。出口はこちらです」と、わたしに声を掛けた。
その瞬間が、わたしの、パリ旅行でのハイライトシーンだったと今でも思う。矢に射抜かれた気がした。
ー人生はこんな風に終わるー
生まれて初めて、わたしは、そんな感慨に陥った。
コメント
結構緩めのなのにどうでも良いマナーとか融通は効かないんですね
がなったらなんぴとたりとも入れません
そうですね、パリは、マナー以外は結構緩めの気がします。
その落差に疲れることもありますが…街は宝石のように美しくて…こだわるところが、日本とは違うのでしょうね。