2024年9月にわたしは、パリに行って、夫に「すっかり、パリかぶれ、しちゃってさ」と笑われたりしているのだが、何かを一瞬でも好きになれるというのは、やっぱり、幸せなことだと思う。
一方で、パリに行って、パリシンドロームになる人もいるという。(「パリ症候群(Paris Syndrome)」は、パリを訪れた観光客が、期待と現実のギャップによって心身の不調を経験する現象を指す)
パリに行って、一度でも、強烈に嫌なこと(例えば、スリに襲われる、レストランで差別的な扱いを受ける、など)があれば、わたしも、パリシンドロームになっていたかもしれない。
パリは、物価が高く、スリに警戒しなくてはならず、何よりもフランスのマナーに反すると、相手を重んじていないと誤解され深く傷つける場合があるので、そこは気疲れした。しかし、街は宝石のように美しくて、建物は歴史があり、細部まで凝った造りで、ところどころに金色やターコイズブルー、赤(例えば、カフェのオーニング)が射し色で、アクセントをつけている。
ルーブル美術館やオペラ・ガルニエ、オルセー美術館などの美術館や博物館、オペラハウスに入れば、細部まで美しくて、尋常ではない美意識や技術の高さを感じる。パリに、安普請の建物など存在しないのではないだろうか。そう考えれば、物価が高いのも仕方がないような気がしてくる。(今の為替が、円安過ぎるのかもしれないけれど)
相手を、マダムとムッシューで呼び合えば、そこには自然と人と人の境界線ができ、必然的に礼儀正しくなり、人間関係も必要以上に立ち入ったりすることもなく、円滑になるのではないか、と思ったりする。
思ったりするのだけれど、実際のフランス人の人間関係は、密で、疲れるものだと、聞いた。挨拶をする時も、握手をするのか、頬にキスするのか、キスするなら左から右へなのか、右から左なのか、それを何回繰り返すのか、とあらかじめ考える必要があるのだという。挨拶時は、お辞儀をしておけばいい日本がどれだけ気楽か、と思えてくる。
また、フランスでは、友人になるということは、いつ、相手の家に遊びに行ってもいい、ということになるそう。掃除の苦手なわたしは、それを聞いた時、少しぎょっとした。1年に1度しか会わなくても、大切な友人、というのが可能である日本に生まれて良かった、神様、ありがとう、という気分になる。
しかし、シャルル・ド・ゴール空港から日本に帰る時、荷物の検査に引っ掛かり、30代の白人の男性が、「荷物を空けますが、よろしいですか?」と聞いてきたので、「下着も入っているのですよ」とわたしが困った声を出すも、「規則ですので」と彼は、「パルドン(失礼します)」とわたしの旅行バックのチャックを開いた。しかし、目に飛び込んできた、ビニール袋に入ったわたしのパンツを見て、笑顔を固まらせて、「問題なさそうですね」と意味不明の言葉を発し、ゆっくりチャックを閉じていた。
こういう、フランスのムッシューのマナーというか、感性というか、やっぱり好きだなあ。
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