アンティーク家具について思うこと

エッセイ

 わたしが40代の頃、井形慶子さんのエッセイが大好きで、中古本をネットで買い集め、うっとりと読んでいた。

 井形慶子さんはイギリスの家具や料理、節約の知恵、町並み、部屋作りなどを美しい写真と共に紹介する本をたくさん出版されている。

 なんでも、イギリスはとことん物を大切に使う文化が定着していて、カップが割れたソーサーも使い続けるか、ガレージセールで売るか、中古ショップに引き取ってもらうかなどをして、とにかくゴミに出さないようだ。

 質が良くでお気に入りのものを買って、長く使う。確かに満足の高い生活を送れそうな感じがする。

 わたしもイギリスの知恵を生かすべく、着古し感のあるブラウスを重曹を入れて使用していない古い鍋で煮てみた。いくぶん、ブラウスが軽やかになった気がしてして、その後もしばらく着続けることができた。

 黒くなりかけたバナナをホットケーキミックスに混ぜ込んでバナナケーキを焼いたり、半端なキュウリや人参、玉ねぎを集めてピクルスを作ったりした。

 そんなある日、夫とわたしは長年の夢だった中古のアパートを購入した。焦茶のレンガで作られたどっしりとした建物でとても気に入った。

 その際、わたしは自分の部屋にアンティークの本棚をヘソクリをはたいて購入した。アンティーク家具店の店長から、オークで作られていて磨けば磨くほどを艶が出るという説明を聞いてわくわくし、イギリスのアンティーク家具にはすべて鍵が付いていてその鍵につけるタッセルはプレゼントします、と言われ舞い上がった。

 それから5年ほど経った今、あんなにいっぱいお金を出してアンティークの本棚を買ったのは何故だろう、と考えることがある。鍵が付いている扉は開けにくいし、加工の施されていないオーク材はカビが付きやすい。そもそも、井形慶子さんは、代々使っているものを引き継いだり、知人から不要な家具を受け継いだりして、お金を掛けず、物を大切にして、充実した生き方をしましょうと提案されていたはず。アンティーク家具を持っている親や譲ってくれそうな友人などいない場合は(わたしをはじめ、ほとんどの人はそうだろう)、IKEAやニトリでしっくりくる家具を探そう。その方がリーズナブルで、結果的に満足な買い物となるだろう。

 「提案」という言葉で思い出したが、そのアンティーク家具店の店長は「この家具をお勧めします」とは決して言わず、「この家具を提案します」とおっしゃっていて、言葉の使い方がちょっと素敵だった。

 わたしの友人もアンティーク家具を持っているが鍵を無くしてしまい、鍵を買うお金がもったいないから箸を差し込んで開け閉めしている、という。何だかなあ・・・。

 

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