時々、海外旅行のブログやYoutube動画を見ていると、「英語が話せなくても、海外ひとり旅はできます」などという発信があるが、それって、どうなのだろうか、と思う。
英語を話さないのであれば、日本人ツアーの方がよほど安全で安上がりだし、何か不利益を被ったり(例えばスリの被害に遭う)、嫌な思いをした(例えばレストランで料理が出てくるまで1時間以上かかった)時は、添乗員や旅行会社に苦情を言ってすっきりし、警察なりレストランなりで解決できるように取り計らってもらえば良い。
しかし、ひとりでのんびり長期海外ステイを楽しみたい、と海外旅行に自由を求めると、どこに行くのも、何をするもの自分頼りということになる。(わたしは人生も旅行も自分を頼りにすると決めている)
ただでさえ、文化も治安も、あらゆるシステムも異なる海外で、英語を使わないとなると、かなりリスキーでストレスフルな旅行になると思う。例えば、ホテルやレストランで失礼な態度をとられても、黙って耐えるしかない。我慢できずに、日本語で喚き散らせば、「野蛮人はこれだから・・・」というような表情をされるだろう。そんな苦痛をひとつひとつ、何でもないよ、と自分に言い聞かせながら、海外ひとり旅をする意味があるのだろうか、とすら思う。
自由に海外ひとり旅をしたいと思うなら、中学校英語くらいは勉強して(本気で取り組めば半年間でマスターできるだろう)、「おつり、足りないんじゃないですか?」とか「○○行の電車のチケットはどこで買えますか?」、「この電車は○○に行きますか?」など、旅行会話ができるだけで、ぐんと快適になる。英語を話せないから、外国人と話す時は緊張し、思わずへらへらし、自信のない態度になり、悲しいけれど、そこに付け込まれ、雑に扱われたり、知らんふりをされたり、場合によってはお金を多めに取られたりする。
むかしは、フランス人は英語を話さない、などということがさかんに言われていたが、パリは誰でも、中高生でも、英語を話す。(一度、「ぼくは英語が下手だから、妻に聞いてください」と言われたことはあった)
英語以外で、パリで、わたしが効果的に感じたのは、何といっても笑顔と挨拶だろう。いや、笑顔と挨拶なしでは、フランスでは誰からも相手にされないとすら思う。
パリの通りで、冷たいカフェラテの試供品が配られていたので、わたしも一本もらって道の脇でゴクゴク飲んでいたら、中高年男性が私の目の前で立ち止まってキョトンとした表情をしたことがあった。そうだった、フランスでは音を立てて飲み食いしてはいけなかったことを思い出し、「セボン!(美味しい)」と微笑んでごまかすと、そのパリジャンも、オッとした表情になり、飛び切りの笑顔を返してくれた。
笑顔を浮かべるたびに相手も笑顔を返してくれるパリで、わたしは少しずつ自分が元気になっていくのを感じた。
日本でこんな、輝くような笑顔を返してくれる人を、わたしは知らない。(いや、ちょっと前まで、わたしにもそういう人がいたな・・・)
そして、魔法の言葉は「シルブプレ(お願いします)」。
フランス語に堪能な方は、ふーんと思われるかもしれないが、例えば、レストランなどで「Excuse me!」と言ってもなかなか立ち止まってくれない店員さんに「シルブプレ!」とフランス語で言うと、はいはい、なんでしょう、と耳を傾けてくれることが少なからずあった。
ルーブル美術館でも、入ったすぐ右側にトイレがあり、30分くらい並んで、わたしの順番まで後二人という時に、掃除の黒人女性が怖い表情で出てきて「別のトイレに行ってください!」と叫んだ時も、わたしは「シルブプレ、マダム!シルブプレ!」と言いながら、前に並んでいた二人の女の子の背中を押しながら「レッツゴー、ゴー、ゴー」と中に入って行った。トイレを覗くと、ペーパーが切れていたので、わたしはティッシュペーパーを3枚ずつ女の子たちに配って、彼女たちからたいそう感謝されたっけ。
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