最近、水泳を始めた。
日曜日の13時に家を出て息をするのも苦しいくらいの蒸し暑さの中、時折、陽炎を見ながら、近所のスポーツクラブまで10分ほど歩く。
茹だるような暑い思いをした分、ひんやりしたプールに入ると気持ちよくて、ホッとする。
最近、平泳ぎの初級レッスンにも入って、若い先生から足や手の動かし方を習っている。すごく新鮮で、楽しい。
さて、その初級レッスンに、日焼けした30代の男性が、「ムズイ」「できない」「恥ずかしい」などと言いながら参加している。周りは主に7、80代の女性ばかり。しかも、八割方は結構上手に泳げる。わたしは泳ぐのが下手で少しずつ沈んでいくので恥ずかしいが、アラカンにもなるとなんということはない。
わたしは一人で泳ぐ時は、もちろん「ビギナーズコース」のレーンを使っている。そのレーンでは、途中で立って休み休み泳いで良いとされている。そこによくやってくるのは、80代のおじいさん。本当に毎回、会う。
「ぼく、年寄りだから、ビギナーズコースで泳がせてね」
と言いながら、キレイなバタフライで泳ぎ始めたりする。平泳ぎもクロールも身体の力が抜けていて、何時間でも泳げそうな余裕を感じさせる泳ぎ。ふと、初級レッスンに参加している30代の男性は50年後、このおじいさんみたいなベテランスイマーになるかもしれない、と思ったりした。
ここでふいに思い出したのは、かの有名な「メキシコ漁師とMBAコンサルタント」の話。それを以下に引用します。
とても魚釣りが好きな漁師がいました。漁師は好きな時間に起きて、釣りをして、子供や友達と遊んで楽しく過ごしていました。
ある日、金持ちの男がその漁師のそばにやってきて言いました。
男:「やあ、すばらしい魚だね。どれくらいの時間、漁をしていたの?」
漁師:「そんなに長い時間じゃないよ」
男:「へぇ、君は魚釣りが得意なようだね。せっかくならもっと働いてみたらどうだい?」
漁師:「自分と自分の家族が食べるにはこれで十分だよ」
男:「それじゃあ、あまった時間でいったい何をするの?」
漁師:「日が高くなるまでゆっくり寝て、それから漁に出る。戻ってきたら子どもと遊んで、女房とシエスタして。 夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌をうたって…ああ、これでもう一日終わりだね」
男:「ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した人間として、きみにアドバイスしよう。いいかい、きみは毎日、もっと長い時間、漁をするべきだ。部下を雇ってもっと売り上げがでたらボートも買おう。そうしたら仲介人に魚を売るのはやめて自前の水産品加工工場を建てて、ビジネスを大きくする。その頃には村を出てロサンゼルス、ニューヨークへと進出していくだろう。きみはマンハッタンのオフィスビルから企業の指揮をとるんだ。そうすれば老後もお金ができるよ」
漁師:「なるほど、そうなるまでにどれくらいかかるのかね?」
男:「20年、いやおそらく25年でそこまでいくね」
漁師:「へぇ、それからどうなるの?」
男:「そしたら引退して、海岸近くの小さな村に住んで、日が高くなるまでゆっくり寝て、 日中は釣りをしたり、子どもと遊んだり、奥さんとシエスタして過ごして、夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌をうたって過ごすんだ。 どうだい?すばらしいだろう」
引用元:【原本】メキシコの漁師と金持ちの男の話(和文・英文)
この話には、様々な解釈と続きがある。わたしは、次のような続きがゾクゾクするほど好き。
漁師:実はね、ぼくは、もうそれをやったんだよ。大金持ちになって引退して、今、家族や友人と人生を楽しんでいるのさ。
そして、我が家にも、これに少しだけ似た物語がある。
夫は結婚後、10年間は資格試験の勉強という理由でまったく働かなかった。しかし、何とかその資格試験に合格し、今はフリーランスで仕事をしている。
しかし、わたしは夫が無職の時代の不安でたまらなかった日々を今も夢で見ることがある。途中で子どもが二人産まれて、お金のことで喧嘩することもよくあった。
悪夢から目覚めると、夫がこんな風に語りかけてくる気がする。
「ぼくは、やり遂げたよ。いっぱい勉強して司法試験に合格し弁護士になったよ!でも、時代が良くなくて、あんまり稼げないんだ。だから、共働きは続けてね!」
そういうわけで、わたしは今も役所で事務員として働いている。クッ、現実はこんなもんさ・・・。
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