孤独なオーストラリアの英語の先生

エッセイ

 昔、オーストラリア人のアラン(仮名)から職場の近くのカフェで英語のレッスンを受けていたことがある。

 当時、アランは30歳で、日本人女性と結婚していて、小さな子どもが二人いた。

 今思うと、母国語しか話せず、日本人女性と結婚して日本に住んでいる外国人男性は気の良い人が多いものの、皆、経済的に困窮していて孤独だったような気がする。

 アランも日本語が話せず、だから英語を教える仕事しかできず、いつも同じ服を着て、優しそうな、でも、寂しそうな瞳をしていた。

 彼は、オーストラリアでは技術者としてビール工場で働いていたという。職場ではビールが飲み放題で、一度、ブラックアウト状態で職場から車を運転して家に帰ったこともあるようだ。(これは危険!)日本人からは恐れられている「マーマイト」も、その工場で作られていたらしい。※マーマイト(Marmite)はビールの醸造過程で増殖して最後に沈殿堆積した酵母、いわばビールの酒粕を主原料とし、主にイギリス及びニュージーランドで生産されているビタミンBを多く含む食品。(ウイキペディアより)

 わたしも「マーマイト」を塗ったトーストをいつかは食べてみるつもり。昔は苦手だったパクチーとドリアンも今は大好きになったことだし。でも、「マーマイト」はやっぱり、ちょっと怖いかな。

 アランは、外見的にはスマートで、穏やかな性格で、とてもそうは見えなかったが、オーストラリアにいた頃はアルコールとドラッグに依存していたらしい。

 日本でも焼酎を飲んでいて、ある日、ブラックアウトした状態で3歳の息子を散歩に連れ出したことにショックを受け、禁酒に踏み切ったようだ。

 「何もなかったからよかったけれど・・・息子が道路に飛び出していたら、と思うとゾッとするよ。ぼくは酔っぱらってフラフラな状態だったんだよ」

 と、唇を噛み、首を横に振っていた。

 わたしが、

 「ドラッグって、摂取したらどうなるの?」

 と、興味本位で聞いてみたら、

 「どのドラッグのこと?ドラッグって、いろんな種類があるんだ」

 と、いたずらっ子のように微笑んでいた。(でも、幸福ではなさそうな雰囲気がそこはかとなく漂っていた・・・)

 そして、こんなことを教えてくれた。

 「ナツメグの粉の小瓶を一本飲むとね、ちょっとドラッグを飲んだ時のような感じになるんだよ。木の葉がキラキラ輝き出して、大きく見えたりするよ」

 「へーッ」と思い、家に帰り、台所のナツメグの粉を舐めてみたが、ひどい味だった。「太田胃酸」をさらに強烈にした感じ。これを50gくらい水に溶かして飲み込むと、少しだけトリップできるのね。

 でも、万一ハマったらと思うと怖くなった。自分のこれからの人生を思い、「ナツメグの粉」は止めることにした。それより「マーマイト」に挑戦する方が健全。こちらは、知人に言わせると、卒倒しそうな味がするらしい。(でも、その後、好きになる人もいるようだ)

 ※ググってみたら、ナツメグを5g摂取して亡くなった方もいらっしゃり、危険なのでトライするのはおやめください。

 

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