結婚は完全ガチャ?

エッセイ

 以前、夫に、

 「わたしが先に死んだら、再婚する?」 

 と、聞いたことがある。夫はホヤッと笑いながら、

 「結婚はもうしない」

 と、首を横に振った。

 「そうよねぇ。結婚したら、いろいろ大変だものね。わたしも、再婚はしないかな」

 と、言った瞬間、今まで乗り越えてきた苦労が走馬灯のようにわたしたちの間を駆け抜け、部屋に丸い輪が見えた。

 その輪とは直径3メートルくらいで、オレンジ色の空気が漂っている。つまり、夕焼け色。そして、お湯に浸かったような心地良さがある。ちょっと曖昧な表現すると、ソウルフルなサークルで無重力になる感じ。(ちなみに、わたしはスピリチュアル系のものは一切信じておりません。念のため)

 でも、夫婦として一緒に暮らしていると、当然、いいことばかりではない。

 「ねえ、そこで青竹踏んでいないで、晩ご飯、何か食べさせてよ」

 いつの間にか、夫が帰宅していて、洗面所から顔を出したりする。

 「今、帰ってきたばかりなのに。まだ、スーツを着ているじゃん」

 と、むくれるわたし。

 朝、好きな時に起きて、テキトーな時間に帰ってくるフリーランスの夫には、わたしのようなサラリーマンの心身のキツさは永遠に分からないだろう、という不満を飲み込みキッチンに向かう。

 そして、ゴーヤチャンプルとソーメンをパパッと作って、テーブルに並べる。(え、夕食なのに質素って?)わたしは料理はまったく苦にならない。子どもが生まれる前は、キムチを作って、チヂミやキムチ鍋を作ったり、パンやチーズケーキ、シュークリームも作っていた。

 30年間も夫婦をやっていて思ったのは、一緒にいてリラックスできる相手がいるのはとっても良いということ。寂しくないし、心細くもならない。わたしが飼い猫の真似をして、つま先で頭を掻こうとトライしていても、夫はポーッとテレビを見ている、そういう心地良さ。

 夫は決して年収が良いわけでもないし、飛行機恐怖症だから海外旅行も一緒に行けない。結婚して最初の10年間は資格試験の勉強という理由でまったく働かなかった・・・。

 しかし、子育ては一生懸命してくれたし、料理以外の家事は全部してくれるし、節約家なところも助かる。

 娘が高校生だった頃、わたしにこんなことを言った。

 「男の子と話していてトキメクこともあるけど、次の日にはどうでも良くなるわ。もうお腹いっぱいって感じ。だって、お父さんほど優しくて面白い男の子はいないものね」

 この言葉を聞いた時、ああ、わたしは結婚には失敗しなかったのだな、と思った。

 夫婦なんて、続けてみないと当たりかハズレか分からない。ある意味、完全なガチャかもしれない。でも、引いてみるのも悪くないかも、と、子どもたちには伝えている。

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