息子はtwitterにアップする自撮りの写真の中で、いつもワインレッドのマニキュアをしている。
美容室で髪を切ってもらいながら、
「わたしの息子は、今年の4月から大学4年生なんですよね。マニキュアなんて塗っている場合じゃないんですよ。就活に力を入れてもらわないと」
と、美容師さんに愚痴をこぼすと、
「息子さんは美意識が高いのだと思いますよ。美意識は爪に出る、と言いますから」
と、言われた。
初めて聞く言葉だった。へー、そうなんだ、美意識って爪に出るのね。
わたしも20代の頃はマニキュアを自分で塗ったりしていたけれど、結構面倒くさかった。なかなか乾かないし、乾いていないマニキュアは変形しやすいし。おまけにわたしは爪が弱くて、マニキュアをするとポツポツと爪の表面に小さな穴ができたりするので、早々に止めてしまった。ネイルショップなど、行ったこともない。ネイルをしてもらうためにじっと手を出して動けないなんて、何だか肩が凝りそう。(わたしは、肩こりが持病)
でも、考えると、爪って何気に便利。ラップやセロテープを剥がす時は爪がないと話にならない。痒いところを掻く時も指だけだったら、物足りない。ちょっとした汚れを取る時も、爪を使ったりしている。あら、本当に爪は大切。
そして、わたしは、切り取られた爪の形をした月を見ると、足の裏がチクンと痛む。爪を切った後、十分に掃除をせずに、床の上の爪が足の裏に刺さったことが何度もあるのだ。
「切り取った爪のような月を見ると、わたしは自分の手の爪とその月を重ね合わせてみたくなるのよ」
30年ほど前に、台湾人の女の子にそんな話をしたことがある。彼女は、
「月を指さしてはいけません。月にはお釈迦様が住んでいらっしゃるから、失礼にあたります。月を指さすと耳が切れる、とわたしも母から教えられました」
と、真剣な表情で言った。
えー、月を指さすと耳が切れるの? そんなはずないじゃない、と思ったけれど、その言葉を聞いて以来、わたしは月を指さしたことは一度もない。
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