美容室のお兄さんを涙目にさせてしまった日

エッセイ

 わたしは2ヶ月に1回、1,200円カットをしてもらっているのだが、年に一回縮毛矯正をする時は、金額を確認しつつ、いろんな美容室にトライしている。

 先日、ホットペッパー で「新規割」のチケットをゲットして、ちょっとおしゃれな美容室を訪れた。

 自動ドアを入ると、すらっとしたジャニーズ系のお兄さんが振り向いて、にっこり微笑みかけてくれた。えー!と年甲斐もなく喜び、微笑み返すわたし(アラカン)。

 そのステキなお兄さんがわたしの担当についてくれた。話してうちに、なんと、そのお兄さんが、この美容室の店長ということが判明した。しかも、結婚していて子どもが二人いるという。店内をざっと見ると、7、8名の美容師さんが立ち振る舞っていた。このお兄さんは、なかなかしっかりしていてやり手なのかも、などと思いながら、わたしはさっきネットで見た、白髪を防ぐ飲み薬が販売されている話をした。「髪」つながりでなんとなく話したのだが、お兄さんの顔が曇った。

 「その話が本当なら、僕たちの仕事はどうなるんでしょうね?カットと縮毛矯正とパーマだけですか?カットなんて、たいした収入にはならないんですよ。一人のお客さんがパーマや縮毛矯正を掛けるのは年に一回くらいだし」

 お兄さんの反応に驚いて、わたしは話を変えるため、慌てて息子の話を始めた。

 「実はわたしには、お兄さんくらいの息子がおりますが、苦労させられましてね、息子が高校生の頃、いろいろ嫌なことが重なったのでしょう、不登校になって高校を辞めると言い出したんです。何度も話し合って、息子が1日、1,000円くれたら、それで好きなものを買って気晴らしをして辛い状況を乗り越える、と言うものですから、高校生の息子に、毎月小遣いとして3万円も渡していたんですよ」

 親バカでしょう?と鏡越しにお兄さんに微笑みかけたら、

 「ぼくの毎月の小遣い、いくらかご存知ですか?」

 と、目尻を赤くして訊くではないか。

 「2万円なんですよ」

 ひゃー、と、もう逃げ帰りたくなるわたし。

 ー物言えば唇寒し秋の風ー

 そんな芭蕉の句が胸を過った。

 

 

 

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