マイブームは無駄じゃない|指輪に夢中だった日々が人生に残したもの

エッセイ

 あの頃、わたしは職場の近くの小さな宝石店に通っていた。

 個人経営の店で、ガラスケースの中には、名前も知らなかった石が並んでいた。

 レッドベリル、スピネル、アレキサンドラライト。

 光の当たり方で色を変えるものもあった。

 何も買わない日が続いた。ただ、見ているだけでよかった。

 店主は無口で、こちらが尋ねれば、静かに答えてくれた。

 マンツーマンで、石の話を聞いた。

 時間は、ゆっくり流れていた。

 やがて、いくつか指輪を買った。

 高いものではないけれど、当時のわたしには、決して軽い買い物ではなかった。

 今思えば、あれは浪費だったのかもしれない。

 使う場面もほとんどなく、指輪は引き出しの中で眠っている。

 それでも、あの時間は、無駄だったとは思わない。

 仕事と家事に追われる日々の中で、ほんのひととき、別の世界に触れていた。

 自分のためだけに、何かを見つめる時間があった。

 今は、節約に励んでいる。

 あの頃のように、何かに夢中になることも、少なくなった。

 けれど、ときどき思い出す。

 ガラス越しに光る石。

 指に触れた、ひんやりとした感触。

 名前を覚えきれなかった石たち。

 人生には、ああいう時間が、必要だったのだと思う。

 たとえば、刺身に添えられたパセリのように。

 食べなくてもいい。なくても困らない。

 けれど、口に入れると、あとから、静かに香りが残る。

👉わたしが使っているアンティーク調の宝石箱です。


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