小さい秋に見つけたバイオリニスト「妃鞠」さん

エッセイ

 今年の秋は、本当に小さな秋だった。

 11月の中旬近くまで、最高気温が28度の日があり、突然、最高気温13度の日に変わった。

 最高気温が13度って、ロシアや中国、イギリス、アイスランド、北極・・・(そこまで引き合いに出す必要はないか)に比べれば、どうということはない気温かもしれないが、冷え性のわたしには十分堪える寒さだ。

 突然、夏から冬に変わった。どことなく、腑に落ちない。何だか、部屋の中の美しいものが、ガサッと無くなったような悲しさもわく。いや、正確に言えば、悲しいのではなく、寂しい。小さな秋は、梨や柿、新米、黄金色の銀杏の木、道端のドングリ、朝夕の心地よい肌寒さなどで多少は感じられたけれど、やっぱり何だか不完全燃焼。京都に行って、美しい紅葉の中で佇む時間がとれたなら、気持ちもまた、違ったのかもしれないけれど・・・。

 そんなことを、イジイジ感じながら、youtube動画をいろいろ見ていたら、見つけてしまったのですよ、わたしの小さな秋を。奇跡のようなバイオリンの音色を奏でる、小さな宝石のような妃鞠さんを。

 彼女は、8歳の時、ロシア・モスクワで開催された「第20回シェルクンチク国際音楽コンクール」の14歳以下の部に最年少で出場し、第1位に輝いた。妃鞠さんが、コンクールの舞台に現れた時の、三名の審査員の、どことなく興味のなさそうな顔が演奏後には恍惚とした表情と変わり、彼らは「ブラボー!ブラボー!」と惜しみない拍手を送ることとなる。

 ロシア、バイオリニストの巨匠で審査員のザハール・ブロン氏(第20回シェルクンチク国際音楽コンクール審査員の中央)は「アジア人のDNAではクラシック音楽を理解できない」という発言をしたことで有名だが、妃毬さんの演奏を聴き「素晴らしい。神童と呼ぶしか、言葉が見つからない」と声を震わせている。

 こういうのって、何だか胸がスカッとする。人の心を変えられるものは、感動いう感情なのだな、ってしみじみ思う。

 妃鞠さんの、神がかったような、研ぎ澄まされたバイオリンの音が、特に悲しい音色が、わたしの心に刺さり、美しい波紋を広げてくれ、涙がこぼれた。

 妃鞠さんの、バイオリン演奏に出会えたことが、何も良いことがなかった2023年のわたしの秋に、鮮やかな色を落としてくれた・・・。

コメント