貧乏性とケリーバック

エッセイ

 50代半ばを過ぎて、高級バックが気になり始めた。

 中でも、エルメスとシャネル。黒のケリーバックとシャネルのピンクフラップバックを持ってみたいものだと、一時期、無性に欲しくなった。

 しかし、エルメスの店など、入るのも何だか、ちょっと怖い。良質なスーツや靴など持っていないし、まず外見で信用されない気がする。特にエルメスは客を選ぶというし、つれなくされたらどうしよう・・・。そういじいじしていた時、質屋で出会ったのが黒のトゴ、28のケリーバック、106万円。

 とりつかれたようにわたしは定期貯金を解約し、買いました、ケリーバックを!

 けれど、夫にばれるのが怖いし(夫はケリーバックなど知らないけれど)、こっそり使ってみても、思ったより物が入らない。何より、使うたびに傷がつくだろうと冷や冷やし1万円すっている気がした。ショルダーベルトは、破れてもエルメスは売ってくれないから、使えない。つまり、わたしのようなお金のない貧乏性の人間が、ケリーバックを所有してみたところで楽しくないということを思い知った。雨が降って濡れないか気にしたり、かといってタクシーに乗るのは贅沢だなどと考えたり、しまいにはなぜバックにこれほど気を使わなければならないのかと腹も立ってきた。

 それで、わたしはこの「おバック様」を別の質屋に売ることにした。

 その老舗質屋の主は、わたしのケリーバックを見て、ホクホクした顔になり、

 「中国人が必ず買いますよ」

 と、電卓をたたき、これでどうですか?と言った。

 ”115万円”!

 ケリーバックの凄さを改めて見せつけられ、わたしはへなへなと腰が砕けそうだった。

 たまたま利益が出たけれど、無理な買い物はしてはならない、と心に誓うこととなった出来事だった。

 

コメント