国際ロマンス詐欺(1)

エッセイ

 コロナでおこもりするようになって、VRのオキュラスクエスト2を購入した話は前回に書いたが、これを使用するにはFacebookのアカウントが必要だった。

 それで、マスクを付けた自分の顔写真を一枚載せて、Facebookのアカウントを作った途端、何人かからコンタクトがあった。昔の知り合いもいれば、まったく知らない人からの友達申請もあった。

 その中に、見知らぬアメリカ人男性からの友達申請が英語であったことに、わたしは目を見開いた。

 日本にいると、英語で話すには英会話学校に行くか、日本語を話せない英語圏の友人を作るしかない。そのどちらも、今の自分には無理だった。

 そんな中、英語の習得が趣味の一つであるわたしにとって、そのハンサムな50代のアメリカ人男性からの友達申請は、とてつもなくありがたいものに思えた。

 自己紹介からどんどん話が弾み、次第にその男性の境遇を憐れに感じ始めた。

 ・まず、韓国系アメリカ人の妻を亡くして、悲しみに暮れていること。

 ・職業は軍医で、アフガニスタンに単身赴任していること。

 ・娘と息子がいるが、寄宿舎から学校に通っていること。

 ・近いうちに、娘のKateと息子のEricを連れて日本に旅行する計画があること。

 ここまで書くと、ピンとくる人もいるだろう。その男性のFacebookに載った写真は、フェラーリを運転するものだったり、南国のプールサイドでくつろいでいるものだったり、ゴージャスなリビングで小さな子どもたちと食事をしている様子だったり、犬を抱いてキングサイズのベッドに寝転ぶ姿だったりと、とにかく富裕層であることは一目瞭然だった。わたしはここでも、自分とは違う世界を垣間見られて、気分がポッとなった。

 「あなたが良い人だって分かったわ。きっと、わたしたち、友達になれるわね」

 メールのやり取りを始めて1カ月くらいたった頃、わたしはそんなメッセージを送った。

 「ぼくは、やっと一輪の大事な花を神様からもらったよ。ぼくは、その花をきれいな水に浸し見守り続けるんだ。雨や風や、嵐が来ても、ぼくは花の傍から絶対に離れない。なぜなら、その花はぼくの心を満たしてくれる唯一の存在だから・・・」

 お前は詩人か、と思いましたね。きっと、「女性の心の掴み方」教室みたいなものが存在し、テキストがあって、皆、それを工夫しながら使っているんですね。

 その人のアカウントをグーグル検索すると、軍服を着た20歳そこそこの、いかにも悪そうな男の子の写真がいろいろ出てきた。クレメントというナイジェリア人だった。

 すぐに、わたしは彼をフェイスブックからブロックし、アメリカ軍の窓口にメールし、彼が使っていたアメリカ人名が登録されていないかどうか確認した。1か月間の楽しい会話は何だったのだろうと怒り狂っていたのだ。アメリカ軍の窓口は律義にも、「フェイスブックで使われている、そのアメリカ軍人名は架空のものであり、軍内部のしかるべきところに報告する」とメールを返信してくれた。

 わたしが彼をブロックした翌日、彼のフェイスブックは削除されていた。

 国際ロマンス詐欺について調べると、4,700万円もの大金を振り込んだ被害者女性もいる。中には、1,2年間かけて人間関係を築き上げた後に詐欺行為に及ぶ輩もいるようだ。SNS上で知らない人と繋がるのは危険だなーと思った出来事だった。

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