幸せはこんなところに

エッセイ

 最近、夫の耳が聞こえにくくなってきた。

 ある日曜日、大型の台風がやってくるというので、ネットで調べ、

「天気予報では、中央区(我が家はある市の中央区にある)はまだ暴風域に入っていないみたいね」

 と、夫に言ったら、

「どうしてニューヨークの天気なんて気にするの?」

 と、真面目な顔で言われた。例え、わたしが本当にニューヨークと言ったとしても、夫は中央区と頭の中で変換するのが自然ではなかろうか。

 また、食事が、うどんとソーメン、ラーメンと麺が続いたので(え、食事が質素って?)、

「なんだか、麺祭りみたいね」

 と、言ったところ、

「え、年末みたいって?年末は、寿司とかオードブルとか年越し蕎麦とかいろいろ食べているじゃないか?そんな「昭和枯れすすき」(もう、この歌を知っている人は少ないかもしれない)みたいなこと言ってさ」

 と、口を尖らせる。

 「ワンタンが食べたい」

 と、言うと、

「台湾が食べたいって、どう言う意味?台湾に行きたいってこと?」

 と、聞き間違えては、食い下がってくる。ちょっとめんどくさい。

 しかし、わたしが歯医者から帰ってきて、

「歯科クリニックの30歳くらいの先生が、わたしにいつも大声でゆっくりと説明するのよ。カルテで50代後半と知ったからみたい」

 と話したら、

「カルテを見たんじゃなくて、あなたの顔を見て、おばあちゃんだと分かったからじゃない?だから、大声で説明しているんだよ。認めたくないのは分かるけどさー」

 と、キョトンとした顔で言われ、わたしは床に寝そべりヒャヒャヒャヒャと笑い転げた。

 まあ、こんな時間が流れることを、幸せと呼ぶのかもしれない。

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