インド人青年と女優「小雪」

エッセイ

 今から15年前、友人がインドで通訳の仕事をしていた。

 外資系の会社でバリバリ働いていたようで、話を聞くたびに羨ましくて仕方がなかった。

 デリーの町を歩いていると、25歳くらいのハンサムなインド人青年から話しかけられ、女優の小雪の話になった。「ラストサムライ」という映画がインドで上映され、インド人青年の間に「小雪ブーム」が起こったらしい。思えば、小雪は色白で、目鼻立ちが端正で、インド人の美的感覚にマッチしたのかもしれない。

 「小雪は処女なの?ぼくたちは処女だと信じているんだけど」

 ふと、インド人青年は友人にそう尋ねた。

 「小雪は30歳を過ぎているし、芸能界という華やかな世界で生きているし、処女ではないと思うわ」

 と友人が答えたところ、その青年がさめざめと泣き始めたという。何という価値観、というか、純情さだろう。

 その話を聞いて以来、小雪をテレビで見ると、泣いているインド人青年がわたしの脳裏に浮かぶようになった。

 友人は、2年近くインドに住んだ後、シンガポールに移住した。

 理由は、インド人が何でも「輪廻」に結びつけて考えるのにうんざりしたようだ。

 例えば、

 ひどい風邪をひく。→ 前世で悪いことをしたんじゃない?と咎められる。

 レストランでちょっと贅沢な食事をする。→ わたしたちは前世で善い行いをしたから、こんなファンシーなレストランに来られるのよ、としんみり言われる。

 悪いことが起これば前世で悪いことをしたのじゃないかと咎められ、良いことが起これば前世で徳を積んだからだ、とやはりすべては前世の問題で片づけられる。同情されることもないし、評価されることもないようだ。

 また、カーストは数千あって、カーストが一つ違うだけで結婚も難しくなるようで、人々の悩みが尽きないことにも、頭が痛かったという。

 でも、いつかインドに行ってみるつもり。

 

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