5月から6月にかけて、わたしはポルトガルとスペインを20日間ずつ旅した。
それで気がついたのは、世界屈指の観光大国のスペイン、特にマドリードとバルセロナでは、日本人旅行者をちらほら見かけたが、ポルトガルではほとんど見かけなかったこと。
アルファマのファドレストランとフランセジーニャの有名店Cafe Santiagoで日本語が聞こえた時は、なんだか嬉しくて思わず話しかけた。Cafe Santiagoで出会った若い男性は心底驚いたようで、「オォー!」と声を上げていた。

日本では知らない人に話しかけることはほとんどない。それなのに海外では、日本語が聞こえただけで親戚に会ったような気持ちになる。不思議なものだ。
以前、パリでも日本人家族と出会って思わずイチジクを勧めてしまったことがある。それほど海外で日本語に出会うと嬉しくなる。
しかし、リスボンやポルトでわたしが見かけたアジア人は、ほぼ中国人だった。
美術館や博物館の案内も、中国語と韓国語はあっても、日本語はほとんど見かけなかった。そのことも、日本人旅行者の少なさを実感させた。
ポルトのボルサ宮殿のチケット売り場で、
「あなたはどこから来たのですか?」
と、聞かれ、咳風邪をひいていて、言葉を発することが苦痛だったわたしは、短く、「ジャパン!」と答えた。相手がキョトンとした表情をしたので、さらに大きな声で、「ジャパン!」と繰り返した。
すると、周りからクスクスと笑い声が上がったので、顔が熱くなってしまった。
そんな中で、少しだけほっとしたことがある。
コインブラで入った裏道の小さな食堂で、偶然口にした揚げたイワシ。甘酢とニンニクが絡めてあって、日本の南蛮漬けの味がし、元気が出た。
カフェで見かけたコンフェイトウやカステーラ。
定食で食べた、白身魚のテンペロ。
それらを味わいながら、日本とポルトガルが繋がっている気がして、身体から少しだけ力が抜けた。
言葉を交わしたポルトガル人の何人かから、
「いつか日本に行くよ。夢なんだ」
と言われたのは、あながち社交辞令ではない気がする。
ポルトガル人にとっては、日本は最東の国であるのだし。
ロカ岬で、削れた崖、荒い波、 丘に広がる野の花、聳える十字架を見たとき、 心がすっと透き通った。
潮風の音を聞きながら、ひとり丘の上に立って、群青色の大西洋を眺めた。
日本人にはほとんど会えなかった。
けれど、遠く離れた最西の地で、日本とのつながりも感じることができた。



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