コインブラでは、立地の良いエアビーに泊まった。
ドアを出るとすぐそばに、16世紀に造られたサン・セバスティアン水道橋があり、その奥には入場無料の植物園が広がっている。
けれど、5月下旬だというのに気温は30度近い。
直射日光を浴びながら散歩する気には、どうしてもなれなかった。
それでも、水筒を片手に坂を上り、コインブラ大学へ向かった。
チケットを買って門をくぐると、広い中庭が現れ、その向こうにコインブラの街が一望できた。

丘の上にある大学は、まるで中世の空気をまとっている。
黒いマントを着た学生たちが、ゆっくりと、あるいは急ぎ足で行き交っている。

近くを通り過ぎた学生のマントを見ると、かなり厚手のウールだった。
気温は30度近い。
なぜこんなに重そうな布をまとって平気で歩けるのだろう。
けれど、歩くたびに揺れるマントには、どこか誇らしげなものがあった。
長い歴史を持つ大学の一員であることを、彼らは一枚の布とともに身にまとっているのかもしれない。
ハリー・ポッターの世界に迷い込んだような講堂。
燻した金の装飾に覆われたジョアニナ図書館。
大きなパイプオルガンと、パステルカラーの光に満ちたサン・ミゲル大聖堂。

ガイドによると、この礼拝堂で結婚式を挙げられるのは、コインブラ大学に関係する人だけなのだという。
大学と街、そしてそこで学んだ人々が、長い時間をかけて結びついている。
そんなことが、この話からも伝わってきた。
見学を終え、モンデゴ川近くの老舗カフェ、ブリオーザ・コインブラでアイスコーヒーとお菓子を食べていると、通りの真ん中で女子学生が二人、ハグしながら笑い合っていた。
黒いマントを羽織っている。だから、大学生と分かる。
二人とも黒いストッキングを履いていた。
よく見ると、あちこちが伝線している。
もちろん靴も黒できめている。
そんな何でもない光景が、不思議と記憶に残った。
長い歴史を持ち、国内外から学生が集まるコインブラ大学。
街を歩いていても、学生たちの存在感は大きい。
この大学で学ぶことが、彼らにとって大きな誇りなのだろうと思った。
アラカンにもなると、努力と、その後の人生の相関関係は、若いころに思っていたほど強くないような気がしてくる。
努力すれば報われる。
いい大学に入れば、良い人生が待っている。
人生は、そんなに単純にはできていない。
それでも、あの丘の上を黒いマントを翻して歩いていた学生たちは、眩しかった。
学生の街だからだろうか、食べ物は比較的リーズナブルだった。
大学近くのカフェでサラダと炒め御飯をテイクアウトしたら、驚くほど量が多かった。
食べきれずに、冷蔵庫に入れ、三日間かけていただいた。
街を歩いていると、学生服店のショーウインドーに、あの黒いマントが飾られていた。
値段は200ユーロほど。
一瞬、欲しくなった。
黒だし、日本で着て歩いてもいい。
そのうち、子どもに譲ってもいい。
しばらく眺めた。
けれど、やっぱり厚地のウールは重そうだった。
もう、いろんなものを脱ぎ捨てて生きていくべき歳だし。
そう思って、買わなかった。


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