アラカン女性の40日間の海外ひとり旅⑬~学生の街・コインブラで黒いマントが欲しくなる~

エッセイ

 コインブラでは、立地の良いエアビーに泊まった。  

 ドアを出るとすぐそばに、16世紀に造られたサン・セバスティアン水道橋があり、その奥には入場無料の植物園が広がっている。  

 けれど、5月下旬だというのに気温は30度近い。

 直射日光を浴びながら散歩する気には、どうしてもなれなかった。

 それでも、水筒を片手に坂を上り、コインブラ大学へ向かった。  

 チケットを買って門をくぐると、広い中庭が現れ、その向こうにコインブラの街が一望できた。  

 丘の上にある大学は、まるで中世の空気をまとっている。

 黒いマントを着た学生たちが、ゆっくりと、あるいは急ぎ足で行き交っている。  

 近くを通り過ぎた学生のマントを見ると、かなり厚手のウールだった。

 気温は30度近い。

 なぜこんなに重そうな布をまとって平気で歩けるのだろう。  

 けれど、歩くたびに揺れるマントには、どこか誇らしげなものがあった。

 長い歴史を持つ大学の一員であることを、彼らは一枚の布とともに身にまとっているのかもしれない。

 ハリー・ポッターの世界に迷い込んだような講堂。

 燻した金の装飾に覆われたジョアニナ図書館。

 大きなパイプオルガンと、パステルカラーの光に満ちたサン・ミゲル大聖堂。

 ガイドによると、この礼拝堂で結婚式を挙げられるのは、コインブラ大学に関係する人だけなのだという。

 大学と街、そしてそこで学んだ人々が、長い時間をかけて結びついている。

 そんなことが、この話からも伝わってきた。

 見学を終え、モンデゴ川近くの老舗カフェ、ブリオーザ・コインブラでアイスコーヒーとお菓子を食べていると、通りの真ん中で女子学生が二人、ハグしながら笑い合っていた。

 黒いマントを羽織っている。だから、大学生と分かる。

 二人とも黒いストッキングを履いていた。

 よく見ると、あちこちが伝線している。

 もちろん靴も黒できめている。

 そんな何でもない光景が、不思議と記憶に残った。

 長い歴史を持ち、国内外から学生が集まるコインブラ大学。

 街を歩いていても、学生たちの存在感は大きい。

 この大学で学ぶことが、彼らにとって大きな誇りなのだろうと思った。

 アラカンにもなると、努力と、その後の人生の相関関係は、若いころに思っていたほど強くないような気がしてくる。

 努力すれば報われる。

 いい大学に入れば、良い人生が待っている。

 人生は、そんなに単純にはできていない。

 それでも、あの丘の上を黒いマントを翻して歩いていた学生たちは、眩しかった。

 学生の街だからだろうか、食べ物は比較的リーズナブルだった。  

 大学近くのカフェでサラダと炒め御飯をテイクアウトしたら、驚くほど量が多かった。

 食べきれずに、冷蔵庫に入れ、三日間かけていただいた。

 街を歩いていると、学生服店のショーウインドーに、あの黒いマントが飾られていた。

 値段は200ユーロほど。  

 一瞬、欲しくなった。

 黒だし、日本で着て歩いてもいい。

 そのうち、子どもに譲ってもいい。  

 しばらく眺めた。

 けれど、やっぱり厚地のウールは重そうだった。

 もう、いろんなものを脱ぎ捨てて生きていくべき歳だし。

 そう思って、買わなかった。

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