海外を長く旅している人に聞くと、
「ポルト、大好き」
と、目を輝かせて言う人が何人もいた。
そんなにいい街なのだろうか。
行く前から、少し期待していた。
実際、ポルトには見どころが多い。
サン・ベント駅に入ると、壁一面を青いアズレージョが覆っている。約2万枚ものタイルには、ポルトガルの歴史や人々の暮らしが描かれている。

駅なのに、電車に乗る人より、写真を撮っている観光客のほうが多いのではないかと思うほどだった。
サン・フランシスコ教会も圧巻だった。

薄暗い教会の中で、壁や天井を埋め尽くす金色の木彫りが鈍く光っている。きらびやかなのに、不思議と静かだった。
ボルサ宮殿も豪華だった。
いくつもの華やかな部屋を巡り、特に「アラブの間」では、その装飾の美しさに圧倒された。

どれを見てもよかったと思う。
でも、
「ポルトでいちばん楽しかった場所は?」
と聞かれたら、わたしはたぶん、
「ドウロ川の川岸」
と、答える。
まず、ドン・ルイス1世橋が、眩暈がするほどかっこいい。
飾り気のない鉄の骨組みが、そのまま空へ伸びている。リベイラの色とりどりの家並みを背景に、無骨な鉄の線が街を大胆に切り取っている。

本当にかっこよくて、痺れる。
川岸へ降りると、雰囲気が一変する。
土産物店やレストランがずらりと並び、どこからか音楽が聞こえてくる。
バンドが演奏していたり、トランペットを吹いている人がいたり、男子学生たちが迫力ある踊りを披露していたりする。
毎日が、ちょっとしたお祭りのようだった。
わたしは、こういう場所が好きだ。
観光名所を「見なければ」と歩き回るより、川岸のレストランに座って、ぼんやり人を眺めている方が楽しい。
川沿いのレストランは観光地価格だけれど、ワインなら3ユーロほどで飲める店もあった。
だから、川岸側の席に座ってワインを一杯。
これをお勧めしたい。
もちろん、観光地なので店によって値段も味も違う。
わたしはGoogleマップの口コミを見てから入るようにしていた。
でも、そんなことより、川を眺めているだけで楽しかった。
ドウロ川はゆっくりと流れている。
対岸には色とりどりの家々が斜面に重なり、赤い屋根が水面に滲んで見えた。
風が吹く。
水面が揺れる。
家々の色が水の上でほどけて、絵の具を薄く溶かしたような模様になる。
何をするでもなく、それを眺めていた。
夜になると、また景色が変わる。
わたしは車で回る夜景ツアーに参加した。
ドウロ川の夜景だけではなく、海や教会を巡りながら、ガイドがポルトの歴史や物価、ビフィーナという豚肉のサンドイッチのおいしい店、裕福な人たちが暮らす住宅街まで教えてくれた。
名所そのものより、
「あそこはお金持ちが住んでいる」
「この店のビフィーナがおいしい」
そんな話のほうが、あとになって妙に思い出されたりする。
40日間も旅をしていると、だんだん「観光しなければ」という気持ちが薄れてくる。
教会をいくつ見たか。
宮殿をいくつ回ったか。
そんなことは、帰国すると案外忘れてしまう。
それよりも、
川岸の椅子に座って飲んだ安いワイン。
どこからか聞こえてきたトランペット。
水面でほどけていた家々の色。
そんな、何でもないものが残っている。
だから、「ポルト、大好き」と言った人たちの気持ちが、今なら少し分かる。
ポルトは、何かを見に行く街というより、ただそこにいることが楽しい街なのかもしれない。


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