アラカン女性の40日間の海外ひとり旅㉒~バルセロナを彩る天才・ガウディに圧倒された旅の終わり~

旅行記

 バルセロナは、街そのものが建築の美術館のようだった。

 ガウディ、モンタネール、カダファルク。カタルーニャ版アール・ヌーヴォーともいわれる「モデルニスモ」の巨匠たちが手掛けた建物が、街のあちこちを彩っている。

 カタルーニャ音楽堂では、天井中央から、巨大なステンドグラスの天窓が逆さまに垂れ下がっている。

 サン・パウ病院では、庭園の中に、赤レンガとタイルで飾られたパビリオンが点在している。

 同じ街にありながら、建物ごとに違う美しさがある。

 街を見下ろす丘の上には、ガウディが設計したグエル公園がある。モザイクで彩られた波打つベンチ、トカゲの噴水、曲線が美しい建物、タイルを張り巡らせた細い塔。一階が土産店になっている建物もあって、見ているだけで楽しい気分になった。

 ガウディの建築には、こちらの心まで弾ませるようなものがある。

 サグラダ・ファミリアも、わたしには、荘厳さより楽しさが伝わってくる教会だった。

 壁面には鳥やさまざまな生き物が彫り込まれ、塔の上には、果物や麦の穂などをかたどった飾りが載っている。細部を見るほど、また別のものが目に入ってくる。

 中に入ると、そこはカラフルな森のようだった。

 何十本もの柱が立ち、上へと枝を伸ばしている。ステンドグラスを通る光は、オレンジ、緑、赤と柱や床を染めていた。

 サグラダ・ファミリアは、人々の寄付や拝観料など、民間の資金に支えられて建設が続けられてきた教会だ。

 工事が始まってから、百四十年以上。世代を超えて、少しずつ造り続けられている。

 ガウディはこう言ったという。

「私の依頼主は急いでいない」

 依頼主とは、神のことだ。

 もちろん、バルセロナの楽しみは建築だけではない。

 噴水や彫刻が並び、ハトが舞う、広々としたカタルーニャ広場。そこから路地を入ると、中世の面影を残す町並みに出会う。

 大きな広場と細い路地。歩くたびに景色が変わり、その先にも行ってみたくなる。

 わたしは、ピンチョスの名店に何軒か入った。

 小さな一品の上に、さまざまな食材が美しく盛り付けられている。食べる前から、うっとりしてしまう。

 フォアグラ、アボガド、マスタード。ニンニク、バターの香り。一口の中に、いくつもの味が広がる。ひとつひとつが小さいから、いろいろなものを少しずついただける。単価も、思っていたほど高くなかった。食べる楽しみが、小さなお皿の上にぎゅっと詰まっていた。

 また、カカオ・サンパカの本店でオレンジチョコのアイスクリームを買い、木陰のベンチでいただいた。百貨店「エル・コルテ・イングレス」の最上階のカフェテリアでは、アイスコーヒーを飲みながら、中心街の眺めを楽しんだ。

 歩いて、食べて、ときどき座って街を眺める。ひとりでも、楽しみ方はいくらでもあった。

 店の人たちの対応も、心に残っている。

 カウンターでひとりで食事をしていると、人気の料理やデザートを勧めてくれた。そして、ある店では、笑顔でこんな風に声を掛けられた。

「今、幸せですか?」

 わたしも笑って、「はい」と答えた。

 ピカソ美術館もある。少し足を延ばせば、海沿いの美しい街にも行ける。何日いても、見たいもの、食べたいものが尽きない。バルセロナは、そんな街だった。

 旅の終わりが近づいた夕方、わたしはもう一度、サグラダ・ファミリアを見上げた。
 百四十年以上、人々の手で造り続けられてきた教会。

「私の依頼主は急いでいない」

 その言葉が、ふと胸に落ちた。

 六十歳で、四十日間のひとり旅に出た。

 美しいものを見て、美味しいものを食べ、自分の行きたいところへ行く。

 帰れば、家族がいる。二匹の猫がいる。

 本を読み、料理をして、小説の続きを書く日々が待っている。

 カウンターで声を掛けてくれた店員さんの笑顔を思い出した。

「今、幸せですか?」

 はい。

 あのときの返事は、今も変わらない。

🍃ページをめくると、ガウディの美術館にいるような気持ちになれます。


ガウディ完全ガイド [ オーローラ・クイート ]

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