アラカンでも時代劇ドラマは苦手

エッセイ

 わたしが子どもだった頃、祖母は夜の8時前になるとソワソワし始め、お茶の入った湯呑みを持って、テレビの前のちゃぶ台に座ったものだ。

 祖母が見ていたのは、時代劇。暴れん坊将軍や遠山の金さん、大岡越前、必殺仕事人、そしてなんと言っても水戸黄門だった。

 あの頃の祖母は、今のわたしと同じ歳くらい。祖母は地味な着物を着て、髪はチリチリにパーマを掛け、ネットで覆い、周りをピンで止めていた。シワも多く、背も低く、もうすっかり年寄りという感じで、バスでも優先席に座っていた。

 当時はもちろんスマホもなく、夜の8時と言えば、歌番組や青春ドラマもあり、十代だったわたしも見たい番組がいっぱいあった。

 だから、水戸黄門の、

 「人生、楽ありゃ苦もあるさ〜」

 の主題歌が始まると、そりゃ、ドヨーンとした気持ちになったものだ。

 「スイートキーモン(水戸黄門を、わたしはそう呼んでいた)のどこがいいの!?」

 と、心の中で叫んでいた。

 そして、アラカンになった今も、同じような筋書きが続く時代劇は苦手。毎回、庶民を苦しめている悪い役人を、助さんと格さんを従えた水戸光圀公が成敗するという勧善懲悪ドラマは魅力が分からない。水戸黄門が自分より地位の低いものたちに印籠を見せ、平伏させる、という場面も好きになれなかった。まあ、江戸時代とは、そういう時代。その縮図が今の会社組織だろう。(あー、早く退職したい・・・)

 さて、25年ほど前、わたしは夫と京都に旅行に行き、太秦映画村も観光した。すると、ちょうど水戸黄門の撮影があっていて、夫は、撮影の合間のお銀さんとツーショットの写真を撮ることができ、ほくほく顔だった。由美かおるは、本当に色白で瞳がキラキラしていて、感じの良い人だった。

 撮影場所近くのお土産物店に入ったら、撮影休憩中の水戸黄門ご本人が入ってきて、

 「水戸黄門ボールペンがあるな」

 と、笑いながらボールペンを触っていた。すると、近くにいた観光客の、老齢の男性(70代くらい)二人が、

 「やったー!水戸黄門を近くで見れた!」

 と、目を輝かせて、ぴょんぴょん、その場で飛び跳ねていた。

 わたしは水戸黄門より、ぴょんぴょん飛び跳ねるおじいさんたちを見て、時代劇が与える夢というものを、春風のように感じていた。

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