わたしは銀製品が苦手

エッセイ

 わたしは20代の頃、なかなか定職につけず、お金がなくて苦労した。

 でも、貴金属には興味があって、どうにかお金を工面して、ティファニーの銀の指輪とネックレスを買った。特にネックレスはティアドロップのヘッドが付いていて、すごく気に入っていた。

 しかし、いくらティファニーブランドであっても、銀製品は黒ずんでいく。ググったところ、シルバーが硫黄成分や塩素に反応して黒く変色する「 硫化(りゅうか) 」という化学反応が起きるためらしい。

 だから月に一回は、鍋に水と重曹を入れ、銀のアクセサリーをグラグラ煮て黒ずみを取り、タオルに歯磨き粉を付けて磨いていた。わたしは若い頃から肩凝りが酷くて、くすんだ銀のアクセサリーをピカピカにするのは本当に骨が折れた。

 根がモノグサなわたしは、次第に銀の手入れが面倒でたまらなくなり、当時の自分にとっては高価だったそのアクセサリーを友人にあげてしまった。(その頃はまだメルカリとかなかったし)

 話は変わるが、先週、大学生の娘と長崎の出島を観光した。娘は日本史に詳しく、

「当時、ヨーロッパでは銀貨15枚と金貨1枚の交換比率だったけれど、日本では銀貨5枚と金貨1枚の交換比率だったから、オランダ人やポルトガル人は日本で少しの銀と引き換えに大量の金を持ち帰り、大金持ちになったのよ」

 と、教えてくれた。

 へー、今もどこかにそんな儲け話が転がっていないかしらね、などと思いながら、

「お母さんは銀は好きじゃないのよ」

 と、呟いた。

「それでね、その後、オランダ人とポルトガル人から銀も大量に持ち帰られて、日本は銀が不足するようになって、日本の銀貨の銀の含有率が低くなったのよ」

「でもね、お母さんは本当に銀製品は好きじゃないの。どうしてかというとね・・・」

 と、説明を始めたら、

「歴史の話をしているのよ。お母さんに銀をあげるなんて言ってないじゃない!なんで話の流れが分からないの!」

 と、娘からキーキー言われた。

 わたしは、その時、おそらく銀つながりで、35年前に行ったマレーシアでのワンシーンを思い出していた。

 ぶらりと立ち寄った土産物店で、女性店主といろんな話をしているうちに仲良くなり、彼女は、

「この一番上の棚にあるものは本物の銀製品で、一番下にあるものは偽物。真ん中にあるものは、本物の銀製品か偽物か分からない」

 と、腰に手を当て、サバサバした口調で教えてくれた。 

 彼女は鮮やかな花柄のブラウスを着ていて、南国らしいフローラル系の香水を付けていた。

 ああ、わたしは退職後に物価の安い南の国に住むのが夢。あれ、何の話をしていたんだっけ・・・。

コメント