「Hello Talk」で会話した怖いヤドカリ青年

エッセイ

 娘が高校生の頃、オーストラリア人のAmiraちゃん(仮名)と「Hello Talk」で知り合い、メッセージをやりとりしていた。偶然にも娘と同じ歳だった。

 今のSNSの世界はすごいな、と思う。娘はメッセージを日本語で打ち込み、グーグル翻訳機に掛け、英文にしたものをメールしていた。Amiraちゃんからの英文のメッセージもグーグル翻訳機に掛けて日本語訳を読んでいた。

 今は、こういう具合で世界は動いているのだな、とアラカンのわたしは感心した。もう、世界中の、英語圏以外の人とも自由に会話ができるじゃないの。

 しかし、わたしは娘が心配で、

「絶対に会いに行ったりしたらダメよ。アイコンに可愛い白人の女の子の写真を使っているけれど、本当はオジサンかもしれないんだから。」

 と、口を酸っぱくして言っていた。

 娘が、AmiraちゃんとLINEでビデオ通話するということになり、一緒に娘のスマホを覗いていた。すると、ワンピースを着たお人形のような、美しい女の子が現れて挨拶を始めるではないか。まさにルノワール の『イレーヌ カーン ダンヴェール嬢』が登場したようだった。

 電話が終わり、わたしはAmiraちゃんの可憐さにうっとりして、

「すごいね、オーストラリアにはあんなきれいな女の子がいっぱいいるのかな」

 と、興奮気味に言うと、

「さあ、世界にはいろんな顔の人がいるんじゃないの」

 と、娘はいたってクール。こういうところにも世代の違いを感じる。

 すっかりテンションが上がっていたわたしは、当時、職場の隣の席で嫁探しに励んでいた30歳の男性職員に、

「あなたも「Hello Talk」でお嫁さんを探したら良いよ!天使のように可愛い女性と出会えるかもよ」

 などと、テキトーなアドバイスをしたりした。

 さて、わたしもマスクをした自撮りの写真を載せて、「Hello Talk」に登録してみた。若作りをした写真を載せたせいか、メッセージをくれるのは、老いも若きも暇を持て余していそうな男性のみ。その中に一際甘いハンサム顔のショーン(仮名)という28歳の男性が日本語でメッセージを送ってきた。彼は翻訳機を使っていないということだった。電話で話をしようか?などと、日本語が堪能であることをアピールしていた。基本的に日本語で会話をしていたのだが「No」を「の」と表現していたりして面白かった。

「探していた、日本人のガールフレンドは見つかったの?」

「の」

 と、言う感じ。

 ショーンは熱心にネットで日本人のガールフレンドを探していたようだ。それは日本人の女の子が可愛いからというような理由ではなく、日本に住むために、日本でひとり暮らしをしている女の子のアパートにどうにかして転がり込もうとしていることが、会話を続けていくうちに分かってきた。お金はないけれど日本に住んでみたいし、仕事も見つけたい、とっかかりとして家とご飯がいる、幸い自分は魅力的な外見をしている若い白人の男だ、自分と住んでくれる日本人女性はいくらでもいるはずだ、ということをシャアシャアと言うのだ。なんなら、君の友人でも良い、この際、50代女性でも仕方がない、などと言う。あのね、女性は歳をとるほど教養と内面の美しさが輝いてくるのよ。(知らんけど)

 わたしは、すぐにゲンナリして、話が合わないのでもうメッセージは送らない、あなたも送ってこないで、というラストメッセージを送った。このショーンというアメリカ人はやけに日本語が堪能だし、ひょっとして中年の日本人男性ではないのか、という疑念も湧いていた。すると、

“Because you are fictitious! (lol)”

“Maybe you are a dude.”

“Later then!”

と、急に英語で捨て台詞を吐かれた。”a dude”(野郎)という単語を使うあたり、彼は本当にアメリカ人だったのかもしれない。(知らんけど)

 女性のみなさん、お気をつけください。世界には甘いマスクをした厚かましい、女性を見下したとんでもないヤドカリdudesがいるのだから。

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