わたしは韓国人の歌手、チェ・ソンボンさんのフアンだった。
「チェ・ソンボンさんは2011年にtvNオーディション番組「コリア・ゴット・タレント」で準優勝してデビューした。彼は3歳で親に捨てられ、幼少時代を児童養護施設で過ごしたが、同級生からのいじめと暴力により施設を飛び出し、歓楽街を転々としながらガムなどを売って生計を立てたというストーリーを告白して、韓国のポール・ポッツと呼ばれ、多くの関心を集めた。」(Kstyle記事より引用)
わたしは、偶然、youtubeで彼のファーストオーディション動画を見て、彼の歌った「Nella Fantasia」を聞いて、その素朴で懸命に歌う姿に感動した。
「Nella Fantasia」とは、
”空想の中で 私は正しい世界を見ている
そこでは皆 平和と誠実の中に生きる
私は夢見る 流れる雲のように
人々が常に自由であるのを
心の奥底に あふれる愛”
という歌詞の、イタリア語のオペラである。美しく壮大な曲にのって、当時22歳だったチェ・ソンボンさんの小さな灯のような祈りが込められた歌声が流れ、審査員も観客も、そしてわたしも涙がこぼした。歌の上手な人は山のようにいるけれど、あんなに素朴な祈りのこもった歌声を、わたしは初めて聴いた気がする。
「以後、彼は大腸がん・前立腺がん・甲状腺がんの診断を受けたことを告白した。このような事情に基づき、KBS 2TV「不朽の名曲」、KBS 1TV「朝の庭」など様々な番組に希望のアイコンとして出演して目を引いた。彼は各番組を通じて「歌を歌うために甲状腺がんの手術を受けなかった。今は腎臓、肺、肝にがんが転移している。しかし、生きている間はずっと歌っていたくて、薬を飲みながら耐えている」などと明かしていた。 これとともにチェ・ソンボンさんは、アルバム制作費の後援を受けるため、10億ウォン(約1億円)規模のクラウドファンディングを行った。また様々な名目の口座を開設し、多くの人々から後援金を受け取った。 しかし2021年、彼のがん闘病が嘘であることが明らかになった。チェ・ソンボンさんは疑惑を否定しながら診断書を公開したが、これも偽物であることが分かった」(Kstyle記事より引用)
そして、チェ・ソンボンさんは、33歳の若さで、謝罪の遺書を残し、自殺することとなる。
ああ、なんで、こんなことになるのだろう・・・。
孤児だった彼は、22歳で突然歌手になってブレイクした。彼の生い立ちを考えれば、愛着障害だったろうし、善悪の判断など、しっかり教育してくれた人は誰もいなかっただろう。歌手としてデビューし、母親に会いに行った彼が、「どうして会いになど来たのか!」と罵られる場面も動画として残っている。
急に有名になりお金を得られるようになった彼に近づいてきたのは、どんな人たちだったのだろう。彼にお金の管理能力など、なかったのではないか。近寄って来てチヤホヤしてくれる人たちに搾取され続けたのではないだろうか。自分の傷をいやしてくれるような、まやかしの優しい言葉と引き換えに・・・。
人の過ちをとことん非難する社会(韓国に限らず中国や、あるいは日本もそうかもしれない)でなかったら、嘘のがん闘病で得た後援金を返しながら、彼は歌を歌い続けることができたのではないか。
過ちを犯しても、心から謝罪し償えば、自分らしく生きなおすことができる。
そんな世界であったらいいのにと、彼の「Nella Fantasia」が、ことさら深く、わたしの心に響いてくる。
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