郷に入っては郷に従う、わたしの主義主張

エッセイ

 24歳から28歳まで、乗馬クラブに通っていた。

 乗馬クラブと言っても、こじんまりとした馬場と5棟の厩舎がある山中の簡素な施設。30年以上昔だが、月謝も一万円とかなりリーズナブルだった。

 馬を厩舎から連れてきてもらって、その後は自分で馬のブラッシングをし、5キロほどの鞍を馬の背に載せるのだが、最初の頃は鞍を載せようとすると、馬が振り向いてわたしの肩を押しよく転かされたものだった。

 また、指導員の先生が場を離れると、馬はわたしを背に乗せたまま勝手に厩舎に帰って行ったりした。本当に動物は賢い。(と、感心している場合ではない)

 でも、馬が、人には絶対近づかない野良猫の頭を鼻で撫で、優しい眼差しをしていた様子が今も目に浮かぶ。猫も馬の鼻に自分の頭を擦り付け、うっとりと目を細めていた。

 家から食べやすいように切った人参やリンゴを持ってきて食べさせたり、夏は馬の背中を洗ったり、丁寧にブラッシングをしたりしているうちに、馬も少しづつわたしに優しくなっていった。

 そんなこんなで、馬と友達になったわたしは馬肉は食べないようにしている。

 だから、熊本に行った時も、馬肉入りカレーや馬油などというものには一切近付かなかった。 

 しかし、阿蘇のペンションで出されたフルコースにはふんだんに馬肉が使われていた。馬刺し、馬肉ハム、馬肉入りパイ、馬肉ステーキ、馬肉入りスープ・・・。まさに馬肉尽くしである。

 さて、目の前には美味しそうな料理が並ぶ。馬肉の入っていない食べ物などほとんどない。パンとサラダくらい。さて、わたしはどうしたか?

 馬肉料理だとは知らなかったことにしよう、とパクパク食べていったのだ。クッ、わたしの主義主張など、所詮そんなもの。

 でも、厳しい戒律の中で生きている、卵も食べないインド人の知り合いも言ってた。

 「知らなくて食べたものは気にしなくて良いことになっている」

 って。(わたしの場合は知っていたけれど)

 また、熊本駅で売っていた辛子蓮根を欧米人の家族が買って、皆で、まさにかぶりつこうとしていた姿からも目を逸らし、コンビニの奥に逃げ込んでしまったわたし。辛子蓮根は400円くらいで売られていた。高級だし、さぞかし美味しい「パン」に違いないと、彼らは思ったのだろう。

 ―郷に入っては郷に従え―

 旅をすると、こういう境地にならざるを得なくなるよね。(え、変な言い訳に聞こえる!?)

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