「あー、幸せ」と心の中で呟いてみる

エッセイ

 日々、わたしが、夫には勝てないなあ、と思うことは、夫の脳内リゾートが、驚くほど安あがりで充実している、ということ。

 まず、夫の毎日の楽しみは、行きつけのうどん屋で、おろし生姜をたっぷり入れた掛けうどんの大盛りを食べること。スポーツクラブには入ったことはなく、近所の大きな公園を走り回ってリフレッシュしている。お腹にのってくる猫たちを撫で、ベランダで小さな花を育てている。小腹が空いた時のために、いつも水の入った水筒と食パンをバックに入れて持ち歩いているし、車にはまったく興味がなく(夫は免許さえ持ったことがない)、最近購入した電動自転車に乗るのが楽しみで仕方がないようだ。

 「お母さん、電動自転車ってすごいよ。全然、力を入れてこがなくても、ビューンって走ってくれるよ!」

 と、子どものようなことを言って、わたしの肩の力を取り除いてくれる。

 「いつか、一緒にタイに移住したい」

 と、わたしが言ったら、

 「ぼくは、一生、働く。だって、やりたい仕事に就けたもん」

 と、夫は笑う。

 「ぼくは、ここで十分楽しいよ」

 とも。

 「何か、仕事以外でやりたいことはないの?」

 と、尋ねると、

 「簿記二級に受かりたい。今、勉強しているけれど、なかなか、進まない。本を開くと5分以内に眠ってしまうからね」

 と、夫は微笑む。

 わたしは、ずっと仕事をしてきて、親との葛藤を抱えていることが特徴の、フレネミーやカバードアグレッション、サイコパス、ナルシスト、そして、何と言っても責任他人論の自己愛性パーソナリティ障害の人々に苦しめられたことがあり、また、わたしも親との葛藤を抱えているひとりだが、夫の存在がいつもわたしを木漏れ日のように包んでくれたので、何があっても、日々、幸せを感じてこられた。

 海外移住もステキだが、やっぱり夫と離れては生きられない、でも、せめて海外旅行には行こう・・・何だか悔しいけれど・・・。

 そういう心境の変化もあって、わたしも安上がりな脳内リゾートの構築のために始めたことがある。

 それは、目を閉じて深呼吸をしながら、

 「あー、幸せ〜」

 と心の中で呟くことだ。

 胸の奥で温かな波紋が広がり、心地よくドキンと音が鳴る。どんな精神状態であっても、1分間くらいは、幸せな気分に浸ることができる。これを毎日、何度も繰り返す。

 その度に、夫の顔が浮かぶ。わたしを木漏れ日が包む・・・。

 

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