白髪を染め続けますか?

エッセイ

 わたしは家の近所の美容室で、1年間使える白髪染め放題のパスを2万円で購入している。

 しかし、今年でサブスクは終わりにしますと、その美容室から言われた。やはり採算が合わないのだろう。

 今までずっと、3週間に一度は白髪染めに行っているけれど、これって、いつまで続けなければならないのだろう、と最近憂鬱。延々とお金と時間が、自分の白髪のために消え続けていくのも何だかなあ、と切ない。今から見合いをするわけでもないし(見合いなんて言葉は古い?)いっそ白髪染めを止めたら気分がパーっと解放されないだろうか。

 先日、行きつけの美容室で、

 「わたし、白髪染めを止めたいと思うのですけれど、止めたら、わたしはこんな感じになりませんかね?理想のイメージなんですけれどね」

 と、美容師さんにスマホの写真を見せた。

 その美容師さんとはもう10年以上のお付き合いで、彼女の将来の夢はバリ島で美容室を開くことだいうことも幾度となく聞き、その度に、わたしも目の前にキラキラ光る海が広がるような気分になれた。しかし、バリ島では、基本的に免許がなくても美容師になれるので、自分が思うような収入は得られないだろう、と彼女が顔を曇らせるたびに、わたしも靄に包まれる気がしたものだった。

 「どんなふうになりたいのですか?」

 と、彼女は、わたしのスマホを覗き込み、

 「ヒェ、猫?なりたいイメージが猫?」

 と、頬をひくひくさせた。

 しかし、キリッとした表情になって、

 「お客様の場合、確かに、前の方は真っ白なんですけれど、後ろは黒い髪の方が多いので、残念ですが、白髪染めを止めてもこんな風にはならないと思います」

 と、早口で言うと、

 「ちょっと失礼します」

 と、涙目になって、奥の部屋に消えて行き、5分ほど戻って来なかった。

 まあ、こんな風になりたい、と猫の写真を見せる客は、わたし以外、今後も現れないかもね。でも、本当にこんな風になれたらステキだと思うのだけれど・・・。

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