理想は、“さかなクン”的生き方

エッセイ

 以前、仕事で、さかなクンさんとお会いしたことがある。お会いしたといっても、わたしはご挨拶して、名刺を交換し、控え室にご案内したくらい。

 控え室では子どもの来館者へのプレゼント用に、大判の模造紙にカラフルで可愛くて、かつ繊細な魚の絵をずっと書かれていらっしゃった。講演会も、魚についての興味深い、熱のこもったお話をされ、「ギョ、ギョギョ!」と飛んだり跳ねたりとサービス精神が旺盛で、観客の心をギョッとつかまれていた。

 ああ、さかなクン的生き方って、最高だと思った。わずかな時間でも、魚の絵を書き、魚に関する本を読み、寸暇を惜しんで魚の研究をされていた。とても幸せそうなお顔をされて。

 講演会中も、子どもから質問された時、

 「お名前は、あ、そう、タクヤさんね」

 と、名前をさん付けで呼んで、フランクさの中でちゃんと子どもをリスペクトされていた。本当に良い方だなあと、舞台の袖でお話を聞いているだけで、じんわりとお人柄が伝わってきた。

 好きなことを仕事にして輝いていらっしゃる人って心が満たされているから、往々にして周りの人を幸せオーラで包みこんでしまう。一瞬、一瞬を自分のやりたいことで満たして、そんな充実した時を積み重ねて、自分の人生を作っていくって、本当に理想の生き方だと思う。

 わたしは、あっという間にアラカンになってしまったけれど、退職後にゆっくりしたいなどとは思わない。

 いよいよ、自分の好きなことだけに熱中できるラストチャンスの時間を大切にしたいし、充実させたいし、夢中で過ごしたい。

 筋トレと水泳に励み、野菜や果物をいっぱい食べて、丈夫な身体を保って。できる範囲で困っている人を助けて、リスペクトを忘れないつもり。雨の日も風の日もたんたんと心からやりたかったことを続けていく。他人とは争わないけれど、自分とは喧嘩することはあるかもしれない。雪にも夏の暑さにも負けない。そういう人にわたしはなりたい。

 あれ、さかなクンさんの話だったのに、ちょっとずつ、宮沢賢治が入ってきた・・・。

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