「ブレイディ・みかこ」さんのこと

エッセイ

 わたしは、ブレイディ・みかこさんと同じ高校の同級生だった。

 何年か前に「ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー」という本がブレイクして、わたしは彼女とクラスも違ったし、話をしたことはほとんどなかったけれど、それでも誇らしいというか嬉しかった。

 わたしたちが通った高校は進学校だった。誰もが大学に行くのが当たり前だった風潮の中で、お金がなくて大学に行けず、それどころかスーパーマーケットでバイトをし、昼食を菓子パンひとつで過ごしていたというエピソードを読んだのは数年前で、自分にも高校生の子どもがいることもあり、気持ちがズーンと落ち込んだ。

 ブレイディ・みかこさんのことで、わたしが覚えているのは、文化祭で彼女がハードロックを歌い、それが素晴らしく上手だったこと。

 「ベイビー、ベイビー、ハートに火をつけてぇ~!」

 そういう歌詞だったと記憶しているが、声にエネルギーが溢れ、空までとどろきそうだった。彼女は歌手になるだろう、とわたしは勝手に思い込んだものだ。

 卒業間近の2月ごろ、彼女はショートカットにした髪の毛を赤く染め、やはり赤い三つ編みをひとつ垂らしていて、

 「面白い髪形ね?」

 と、わたしが話しかけると、

 「これは冗談でやっているの」

 と、にこにこしていた。

 今思えば、当時流行っていたペコちゃんに似た、キュートな顔立ちをされていた。

 彼女はイギリスに渡り、イギリス人と結婚して、ライターとして大活躍している。

 一方、わたしは事務員になり、閉塞感の中、アップアップしている。

 みかこさんもイギリスでの生活は苦労の連続だったと思う。多様性の中で生きるしんどさは「ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー」の随所から滲み出ている。しかも、外国で子育てをするのは孤独で唇を噛みしめる毎日の連続だっただろう。なにしろ、「子どもはすべてにぶちあたる(「ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー」からの引用)」のだから。

 しかし、やっぱり、すごくうらやましい。

 

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