知らない人と会話してしまう現象

エッセイ

 バスの中や信号待ちをしている時、他人の会話が耳に飛び込んでくることがある。この前、わたしの前にいた70代くらいの女性が二人で会話をしていた。

 「友達と○床(老舗の寿司屋)にランチに行ったのよ。並握りと茶碗蒸し、吸い物がついて3,000円で、たまには贅沢していいね、ってなって」

 「そりゃ、そうよ。たまには贅沢しなきゃ」

 「それでね、ランチを食べ終わって、ちょっと量が足りなかったものだから、最後に一番食べたいものを食べようって言って、アワビと雲丹を一貫ずつ頼んだら、お会計の時ひとり8,000円もとられたのよ」

 「きゃー、それはたまらないわ!」

 「でしょ!もう、うかつに追加注文はしないと思ったわ。ああいう寿司屋はメニューを見ても、時価としか書いてないもんね」

 まったく、時価ってなんだろうと、わたしは思った。もちろん、その時の価格という意味だろうけれど、店で提供する時点では価格は決まっているわけだし、ちょっと書いておいてくれても良くない!?

 と、あたかも自分のことのように興奮するわたし。

 先日は、娘と通りを歩いていると、モモイロインコを肩に乗せている50代くらいの女性とその友達らしき女性が隣を歩いていた。モモイロインコって、身体がピンクで羽がグレーでとってもキュート。マリー・ローランサンの絵から出てきたような、キセキのような配色。

 二人の会話が聞こえてきた。

 「この子、今5歳でしょう。後、35年も生きるのよ。わたしが先に死んだら、どうなってしまうのか考えると、夜もろくろく眠れないわ」

 「娘に返せばいいのよ。今は赤ん坊がいるから面倒見られないでしょうけど、もともと、シズちゃん(多分娘の名前)が買ったんだから」

 「でも、いなくなるのも寂しいし」

 「何言ってんのよ、自分は死ぬんだから寂しいもへったくれもないじゃない」

 わたしはインコの寿命が犬や猫の2、3倍ほど長いことに驚き、

 「へー、インコってすごく長生きなんですね」

 とそのお二人に向かって話しかけたら、その方達も、そうなの、と深く頷いてくださった。

 後で娘から、

 「知らない人たちの会話に勝手に参加したらだめよ」

 と注意された。

 アラカンになると、知らない人とつい会話してしまう現象が出てくる。

 え、わたしだけ?

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