オランダ人青年と話し込む

エッセイ

 先日、カフェで隣になった外国人青年に話しかけてみたら、オランダ人だった。

 オランダと聞いて、わたしは少し戸惑った。

 なんとなく、よく知っているような気がしたからだ。

 ハウステンボスに、子どもたちを連れて何度も行ったせいかもしれない。行ったこともないのに、どこか親しみを感じていた。

 けれど実際には、何も知らない。

 おまけに、「Netherlandsって、Hollandのこと?」などと、面と向かって聞いてしまった。

 ああ、やってしまった、と思う。こういう年の取り方はよくない。

 それでも、何とか話を続けようとして、頭の中で言葉を探した。

 チューリップ、運河、チーズ、自転車……。

「オランダと言えば、日本ではゴッホが有名よ」

 そう言うと、彼は笑顔で聞き返した。

「ゴッホって何?」

 一瞬、言葉に詰まる。

「画家よ」

「誰だろう……ファン・ゴッホかな」

「そうそう、ファン・ゴッホ」

 ほっとして、わたしも笑った。

「風車も有名よ」

 と言うと、

「ぼくは”風車通り”の病院で生まれたんだよ。オランダでは、どの町にも風車通りがあるんだ」

 と、彼は楽しそうに言った。

 なんだか、いたたまれない気持ちになる。

「オランダの木靴、かわいいわよね」

 と、言うと、

「クロンプ、って言うんだけど、農場で役立つよ。牛に足を踏まれても痛くないから」

 と教えてくれた。

 あれは飾りじゃなくて、実用品だったのだと、初めて知った。

「いつか、アンネ・フランクの家に行ってみたいの。オペラ歌手のアミラも好きなのよ」 

 と言うと、彼はアミラを知らなかった。

 そのあと、家族のことや仕事の話を聞き、わたしも旅の話をした。

 気がつくと、二時間があっという間に過ぎていた。

「あなたの、どうしても叶えたいことって何?」

 と聞かれたときは、少し驚いた。

 でも、嬉しかった。

 その問いを、ちゃんと聞いてくれる人だったから。

 そのあと彼は、わたしが勧めた動物園に行き、本屋の中のスタバでホットココアを飲んだらしい。

 一度きりの出会いなのに、不思議と、記憶の中に残り続ける。

 わたしも、いつか。

 ”わたしの知らないオランダ”を、見てみたいと思った。

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